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司馬遼太郎『歴史と視点』

Kodakana2006-08-14

歴史と視点 ─私の雑記帖─
司馬遼太郎
新潮文庫
昭和55年5月25日 発行

目次

  • 大正生れの『故老』
  • 戦車・この憂鬱な乗物
  • 戦車の壁の中で
  • 石鳥居の垢
  • 豊後の尼御前
  • 見廻組のこと
  • 黒鍬者
  • 長州人の山の神
  • 権力の神聖装飾
  • 人間が神になる話

司馬遼太郎氏が歴史と視点について語る珠玉の十編。特に最初の四編は、戦中に徴兵されて戦車兵として軍隊の中に居た著者の、旧日本軍に関する貴重な証言である。その記述は軽薄な戦争擁護趣味も口だけの神経的反戦も吹き飛ばす重味を持っている。以下は「石鳥居の垢」より引用。

敵が上陸してくる場合、北関東にいるわれわれは、それぞれ所定の道路をつかって南下する。その邀撃作戦などについて説明すべく、大本営から人がきたことがあった。(…)

終って、質問になった。(…)その道路が空っぽという前提で説明されているのだが、(…)物凄い人数が、大八車に家財道具を積んで(…)山に逃げるべく道路を北上してくるにちがいなかった。当時は関東のほとんどの道路は舗装されておらず、路幅もせまく、やっと二車線程度という道筋がほとんどだった。戦車が南下する、大八車が北上してくる、そういう場合の交通整理はどうなっているのだろうかということであった。

(…)しばらく私を睨みすえていたが、やがて昂然と、
「轢っ殺してゆけ」
と、いった。

これは小説ではない。

歴史と視点 (新潮文庫)

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